インタビュー5

先生のあの笑顔は何だったんだろう…


んー、と考えてみる。

答えのないこと

例えば恋愛の正解とか自分の進む道とか

SNSの写真と文章が全然違う意味は?とか。

を、考えるときは頭が右に傾く。


答えがあること

明日の服や、今日の晩ご飯、

テレビのクイズ番組の答えなどは

左に頭が傾く、いつの頃からか私の癖だ。



「ねぇ、聞いてる?」


ちなみに今は右に傾いている。


「ねぇってば!翔子!」



美香は少し呆れたような顔でこっちを見る。

中学の頃からの友人で

高校で離れたが大学でまた同じになった。


ほぼ聞いてないが

今の美香にはそんな事言えない。


おおよそ結婚式の関連で話してたら

彼と温度差を感じたんだろう。

些細なことが不安になるらしく

いつでも爆発しそうな状態なのだ。


「いくつか候補を絞ってから話したら?」


式場、ドレス、料理どの話でも通じる返事。


「えー、でもなぁ…」


焼き鳥の串をクルクルする美香を見て

私の予想が当たったことに安心しながら

私の頭はまた右に傾いていく。


何だったんだろう…

インタビュー4

ふぅ…とため息のような一息をつき

先程来た取材を思い返す。


きっと、チヤホヤされてきたのね。

どこか夜のお店で働いてコネ入社かしら…

あの編集の子、苦手だわ。


女を相手にしながら、女をださないでちょうだい。


香水の香りがするのも、

時折 長い髪を触りながらの仕草も

私には鬱陶しく思えて仕方ない。




「彼女は悪くないんだけどね…」




そう、彼女は悪くないのだ。

ただ私が思い出と彼女の外見を重ねて、

勝手な偏見で嫌悪感を抱くだけである。


ごめんなさいね、でも無理なのよ。


陽子にそっくりなんだもの。


華奢な体と、長い髪。

控えめに見せてるつもりだろうが

隠しきれない女としての自信。


そうね、いい女。だと思うわ。

羨ましく、妬ましいほどね。



…そして、また思い出す。


井上さん、あの子いいわねぇ。

これも勝手な偏見だ。


きっと、あの子は気づいてない。


自分の持ってる心地よい声色にも、

ふと見せた横顔の綺麗さや、

程よく肉づいた健康でしなやかな体。

染めていない艶のある黒髪のボブにも好感を持った、私の好みの問題である。


緊張してたわね…私もよ。


人見知りなのよ、ごめんなさいね。


本当は私から気遣って話をふるべきである。

でも、その一言、二言の会話が苦手で、

あんなに冷たい空気にしてしまう。


そう、いつもそうだ。

そして、相手がいない時に心の中で謝る。

インタビュー 3

先生は私のことを

翔子ちゃん

と呼んでくれている。


今でこそ何でも話してくれる

まるで祖母のような先生だが、

先輩から聞いていたイメージは違った。



「なんだか冷たいのよね…

作家って変わった人が多いけど

あんなに冷たく話されるのは先生だけね。」



佐野千代子


私が本を読むキッカケとなり

今の仕事を目指し、夢見た人。


柔かな物腰と、穏やかな口調ではあるが

きちんと切りそろえたショートヘアと

少し切れ長の目が冷たく見せるのか。


あんなに感動した物語を

本当にこの人が書いたのだろうか…

あの日の私には信じられなかった。


「そちらのかたは?」


私に向けられる目は鋭く、冷たかった。

メディアへの露出を避け、

自分は紙の上に生きていると言った先生。


掌に汗をかきながら

「アシスタントの井上です…」

と言うのが精一杯の圧迫感。


少しの間をあけてから

「そう…」

と、だけ言われた。


先輩と先生のインタビューは

淡々と進んでいった、というよりは

先輩の用意した内容では満足できないのか

全て肩透かしをくらうような温度差があった。


ありがとうございました、

と、予定より早く切り上げた先輩は

帰りの車で悪態を吐く。


「なんかさ…賞たくさんとってるか知らないけど、あの態度どうなの?

あーぁ、ほんと苦手、佐野千代子…あーぁ。」


タバコを吸いながら、

インタビューの走り書きの紙の端をクシャっとしながら窓の外を見る。


「…少し怖い…ようなイメージですね。」


控えめに言った私の言葉に


でしょー?しかもさぁ…

とグダグダと話す先輩。


この時は黙っておいたが

足速に帰る先輩の後を付いて行きながら

振り返った私に向けられたのは

…優しい笑顔だった。