インタビュー2

私は、子供の頃からずっと

女の子らしい、という声が

あまり好きではありません。



きっと従姉妹の陽子を思い出すから。



さっきから私をインタビューしてくれてる

この人は 井上翔子ちゃん。

私の連載の担当でもある彼女は

女性にしては少し低めの声で、

とても話が面白いから

つられて私も話してしまうんです。


まだアシスタントとして

頑張っていた頃から知っていますよ、

もう32になるそうです、はやいですね。


今年は私にとって

作家歴30年を迎える年でもあり

還暦になる年でもあり…


どってことないんですけどね、

周りがどんどんお祭りにしていくんです。


嬉しい気持ちもありますが、

気持ちだけにしてほしい、

という思いもあります。


だから、翔子ちゃんからの

インタビューだけ引き受けました。


還暦ともなれば

なんでも体調不良でいいんですよ、

ごめんなさいねぇ、って答えて

お手紙でも出しておきましょう。


翔子ちゃんは驚いてましたけどね。


「私でいいんですか?

もっとインタビューの依頼はきたでしょう?」


もちろん来ましたよ、

テレビの依頼もお断りしました。

何回も同じ事を話すのは嫌だから

私はデビュー作からお世話になっている

翔子ちゃんの出版社だけ、

カメラマンもお断りしました。

翔子ちゃんが撮ってくれたらいいんです。

とんとんとくん インタビュー

今はもう亡くなられてしまったけど、

当時テレビで高齢の女性作家が特集されてね、

あー、こんな人生いいなぁ、と思ったの。

それが言葉になってたのね。


「こんな人生いいなぁ」って。


そしたらその時同棲してて、

一緒にテレビを見ていた今の主人がね、

えぇ、秘書をしてくれています。

いい加減な性格の私には、とても助かっているんですよ。


そしたらね彼が言ったんですよ

「ちぃちゃんは物書きになりなよ。」

もう笑っちゃったわ。


「そんな簡単じゃないよ?」

って答えたらね、また言うのよ


「ちぃちゃんは物書きで俺は秘書になる。」

それも笑ったわ。

この人 働きたくないのね?って思ったの(笑)


でもね、その一言なんですよ、本当に。


あの頃 私は29でした。

夢がぼやぁと広がってきてね、

人生ったって大したことないんですよ、

薄っぺらいものを思い返してみたんです。


そこから私の作家人生は始まって、

お陰様で今も書かせてもらっています。


春の匂いがする午後の客間で

穏やかな口調で話しているのは

今年 作家歴30年 還暦を迎える

佐野千代子。


デビュー作で直木賞を取り

その後も数々の賞を受賞した。

小説、エッセイ、対談もする。


婦人向けの雑誌の連載が続く悩み相談では

長年 圧倒的な支持を受けている。


今や作家もメディアに出ている時代だが

彼女は頑なに仕事も自分も紙だけで生きていく

と言いテレビやラジオには出ない。


品の良さと、優しい言葉遣い

ぱぁっと明るい笑顔は人を惹きつける。

還暦と言えど素晴らしく女だ。


老若男女問わずファンが増えそうだが

彼女はテレビには出ないそうだ。